生まれて初めてのヨーロッパ。風景を眺め街を散策し多いに楽しんだが、ロマネスクの教会建築、特にシトー会修道院の遺構には驚いた。
これは一体どういう空間なんだろう。高さも広さも特に大きいわけでもなく、見事な彫刻が施されているわけでもない。しかし、美しい、素晴らしいと感じないではいられない圧倒的な空間の密度と構成。
なし崩し的に独立してしまい仕事は全く無く、日本に帰って来た時には残ったわずかなフランと十万円に満たない貯金しかなかったけれど、あんなのが創れたらなあという無謀な夢だけはしこたま仕入れることが出来た。夢が妄想に化けてしまわないように、事務所の名前をクロワートルにしてしまう。修道院、そして回廊を意味するフランス語。
回廊は修道院の要とも言える重要な空間で、その素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。キリスト教に疎い身にはその意味深さをほとんど解し得ないが、日が射し風が流れる中庭を囲み、いくつもの建物を結び付ける回廊には、自然と建築と人間の絶妙の調和がある。
あんなのが創れたらなあ。
無謀な夢を、無謀と知りながら捨ててはいない。