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金津模型写真-1 金津模型写真-2
DATA
共同設計:西田雅嗣
     フォルム建築設計室
     アトリエ・クロワートル
金津図面-1 金津図面-2 金津図面-3
提案書「私の考える創作の森」

列柱を巡るストーリー、または建築と出来事の断章
- 創作の森センター施設の説明に代えて -

■プロローグ、または越前瓦
なだらかなアプローチ道路を尾根伝いに登り駐車場に着く。車を降りると、先ほどから車窓前方にちらちら見え隠れしていた銀色に鈍く光る越前瓦葺きの屋根が、目の前で迎えてくれる。屋根は予想以上に長くはるかにまで伸びている。この懐かしい里山の風景の中のこの屋根は、この山 - 森一体が、屋根の長さが象徴するような無限に伸びる可能性を秘めた創造の森である予感を与えてくれる。「金津創作の森」プロジェクトのプレ・イヴェントで、この屋根の瓦を自ら焼き、寄進した町民にとっては、この越前瓦の乗った長い屋根は、自分と無縁の存在ではないはずだ。

■ざわめき
長い切妻屋根を支える列柱の導くままに建物の内部に入る。列柱は建物の奥まで続く。建物が進むべき方向を示してくれているのである。中に入ってもなお、右手には傾斜したガラスの壁を通して外の緑が身近だ。森の中にいるのである。そう感じ始めると、立ち並ぶ列柱も木々の林立に見えなくもない。吹き抜けを通して右手下の方からは、コーヒーカップのカチャカチャいう音と楽しそうな話し声が聞こえてくる。行って見たいと思うがどこからあそこに行くのか。列柱の導くまま進めばそのうち分かるはずだ。

■古代の円形劇場
前方には真直ぐ下へ降りて行く階段が見え、階段はさらにその下へとずっと続く。下の奥の方で、役者風の若者が二人、奇妙な衣装をまとい大声を張り上げながら芝居のようなことをしている(施設計画概要図01左上の内部パース参照)のにでくわすかも知れない。裏側に階段が付いている奥の方の一枚の壁をうまく使って舞台の背景を作っている。ここで夜には演劇があると入り口のポスターに書いてあったのを思い出す。リハーサルだろうか。斜めのガラス壁を突き抜けてそのまま外の広場へと続き、さらに下へと続く大きな階段には、何人かの若者が腰を下ろし、役者風の二人をじっと見ていたり、時折駆け寄って話しをしたりしている。スタッフだろうか。帰りがけにリハーサルだけでも見ることが出来るかも知れない。まるで古代の円形劇場の階段席から見物するようだなと思ってしまうに違いない。

■橋の上から
階段を降りずに歩を進め、そのまま奥の方へと歩いて行くといつの間にかブリッジの上を歩いている。ガラスに覆われた吹き抜け空間の中、右手には相変わらず斜めのガラス壁が豊かな自然を建物の中に取り込んでくれている。ペイヴされた外の広場の向こう側の、なだらかな斜面の緑が手に取るようだ。左手の下の方には瓦や古墳から出土した土器や様々な郷土資料が展示されているのが見える。老夫婦が仲睦まじく会話をしながら見入っているのを目にするかもしれない。後ろを振り返って左手、皿や茶碗、カップや湯のみ、余り上手とは言えない焼きものが並んでいるのを目にするであろう。販売している。ここの創作工房で町民が作ったものだ。面白いし味があるものもありそうなので帰りがけに見て行くと良い。

■ガラスの箱
ブリッジの奥の方は広くなっていて、大きなガラスの箱の中に浮いたデッキの様な広いスペースになっている。この町民ギャラリーに展示されている親類の絵を見ることを目的にここに来る町民も多いことだろう。その親類は、高校生時代、休みになるとここの創作工房に来ては絵を描き、とうとう美大に入ってしまい、今ではボランティアとして、帰省したときにはここの創作工房でティーチング・スタッフとして活躍しているなんていうこともあるかもしれない。「創作の森」に縁のあるこうした芸術家の卵たちの作品展で、縁のある人間の名前を見ることは嬉しいことである。

■日曜美術館、または文化教室
このギャラリーに接してある会議室では、件の親類の通う美大の先生が日曜日に来てくれて、「現代絵画の見方」と題したレクチャーなどをボランティアで行ってもくれることもあるだろう。素人には皆目理解の出来ない現代美術だけれども、親類の出品している展覧会を見た後だと、こういうレクチャーがあれば少しは現代美術も見近になったかなと思ったりもするはずだ。外の広場で行うイヴェントの打ち合わせのために頻繁にこの部屋を使った人や、近所の人達が集まっての着物の着つけ教室に使わせてもらったという町民もいるかも知れない。

■古代の楼閣
ギャラリーを出て建物の外のテラスに出る。相変わらず越前瓦の切妻屋根は列柱に支えられて長く続いている。テラスからは屋根の示す方向に、件の親類の通い続けた創作工房や焼きもの工房や登り窯、大学出たての新米の芸術家や都会の喧騒を逃れて住み着いた芸術家たちのアトリエが点在して、この金津の豊かな自然を残す里山の森に、創作を通じて形成された一つのコロニーを形作っている様子が見えるはずだ。建物に入るとき見た列柱に支えられた瓦屋根はそんなに仰々しいものではなかったが、ここで見る列柱とその上の三角屋根は想像以上に高さのあるものであることに気付く。屋根のはるか向こうに点在する創作工房やアトリエや芸術家たちの住宅からこの屋根を眺めれば、創作の森のコロニー全体を見渡すシンボルの様に移るかもしれない。金津に多い古墳が作られた時代、古墳の主が君臨した集落の中心には、8本柱の上に切妻屋根の乗った、高床式のとても高い楼閣がシンボルとして建っていたことを思い出す。

■コーヒーブレイク
建物の中に戻ってギャラリー脇の階段で下の階に降りよう。二人の若者の演劇のリハーサルはまだ続いている。降りて左の方には先ほどの老夫婦がいた資料室、そしてその脇の吹き抜けに張り出した長い廊下を、ガラス壁のうつしだす緑を感じながら奥まで行くと、建物に入ってすぐに感じた喫茶コーナーが見える。ここいらで少し休憩しよう。天気が良いので喫茶コーナーの前の、外のテラスでコーヒーを飲むことをお勧めする。

■ 村 祭
コーヒーを飲み終わってテラス前の階段を登ると目の前は一気に広がり、大きな階段が下の方へと続いている。この下の方へと降りていく谷状の広場が自然の地形であることは、右手の森の地形から察っしがつく。一番下は大きなデッキ状の平場になり、アートスペースと呼ばれているところで、多目的に使えるステージである。左手には空の青さと緑を映すガラスの壁、右手にはこれと呼応するようななだらかな斜面の自然の木々、その間に挟まれた自然の谷の地形に沿って作られた階段席のあるアートスペース。祝祭の場であった古代ギリシアの円形劇場がここでも思い起こされる。天気の良い時期には、行きつけのジャズ・クラブのオーナーの仲間たちに、地元の幾つかのグループと一緒に1週間ほど連続でジャズ・ライヴ・ステージをここでやってくれるよう頼んで見ても良いかもしれない。夏の夕暮れ時に、喫茶コーナーで買ったビールを片手に、階段の上に腰を下ろしてここに集う顔見知りと談笑しながら友人の演奏するジャズを楽しむ。この地の財産である豊かな自然を満喫するには屋根などない方が良い。話しのほうが面白くなったら喫茶コーナーのテラスで盛り上がれば良い。冬でも、友人たちは若者たちが芝居をやっていたあのスペースでも演奏してくれるはずだ。

■再び中へ
階段を降りると左手に建物への入り口が見える。中へ入るとロビーから一直線に降りてくる階段が左側に、そして二人の若者が演劇のリハーサルをしていたスペースへと降りていく階段が右側にあり、ロービーから一直線に一番下まで階段で降りていく途中に入ってきたことが分かる。階段はそのまま建物の外まで続き、この場所も若者の演劇のリハーサルをしていた場所も、外の多目的なスペースの一部であることに気付く。この階段に腰かけていた若者も芝居のリハーサルをしていた若者も今はいない。左側のホールの一部をパーティションで仕切って控室を作って、そこで本番に備えての準備に余念がない。

■文 化
階段を降りて左の方、ミュージアムホールと名前の付いたスペースが広がる。若者たちが演劇のリハーサルをやっていたガラスの箱の中のスペースと続いたところは、今は、演劇のための控室が臨時に作られて、芝居のためのバックアップスペースとして使われている。その左の方では、「世界のタイル」なんていう展示会が催されているかもしれない。何でも、英語では、屋根瓦も敷瓦も床タイルもみんなタイルト呼ぶらしい。越前瓦に因んで、それで世界のタイルという展覧会なのだ。会場一杯に様々な床タイルが実際に敷かれ、気候・風土に密接に関係のある世界中の屋根タイル(瓦)も実際に屋根に葺かれた形で展示されている様子は壮観であるに違いない。見近な日常の越前瓦がこんな広がりを見せるとは、と思わず柄にもなく文化に思いを馳せたりするだろう。珍しい企画展なので県外から来て見ている人多いはずだ。「世界のタイル展」の前には、創作館のティーチング・スタッフや、地元ゆかりの作家の作品によるトリエンナーレが、創作館で作られた一般町民の作品と一緒に展示されて、ここで催されていたはずだ。

■エピローグ、再び越前瓦
ミュージアムホール脇の廊下を奥に行くとエレヴェーターでエントランスレヴェルに戻れる。でも、地下の廊下は余りいい雰囲気ではないので、芝居のリハーサルを見ていた若者の座っていた階段を登って戻る方が良いかも知れない。天気も良いので、ガラスの壁を通して感じられる緑と空を左手に感じ、右手には、今までこの建物のなかで見て来たことにもう一度ちらちらと目をやりながら。ロビーを出ると、列柱と越前瓦の屋根が、今度は随分と親しげに見送ってくれるはずである。